(仮)どんな海洋保護区が何にどの程度どの時空間スケールで有効なのか?そしてそれは検出できるのか?

「どんな海洋保護区が」「何に」「どの程度」「どの時空間スケールで」有効なのか?そしてそれは検出できるのか?
保護区の効果について、最近話題なので少し調べてみました。

陸域では少し前にいくつかメタ解析が出ていて、例えば、クッツェーさん、ガストンさん、チョーン(?)さんの論文だと保護区があったほうが、多様性もバイオマスもいいという結果*1

海でも同様な検討がどの程度あるのかという話が、昨今の保護区の検討の高まりとともに前々から議題に上がっています。

きちんとレビューをしたわけではありませんが、問い合わせを受けたのでちょっと検索して引っかかった程度の論文を見てみました。
まず、結論から言ってしまえば、 いくつかのメタ解析では効果がある場所とそうではない場所があり、単純にMPAの設置が効果があるわけではないようです。

では、まず、Stewart 2009 Cons Lett「Temperate marine reserves...」*2という論文です。ここでは、温帯域の海洋保護区(ここではノーテイクな場所)の効果の検討を行っています。隣接する漁獲などがあるエリアと比較して、保護区中では魚が高密度でバイオマスと種多様性の高さも認められ、海藻の密度も保護区内で高かった(魚によるウニなどグレーザー除去効果)。ただし、保護区の効果の大きさはばらついた。どの程度の数の保護区があれば定量的に保護区の効果の高さを検出できるかを調べるために、パワーアナリシスを行い、少なくとも37の大きな保護区かあれば、定量的に効果の高さを検出できることが分かった。そのため効果を定量化するにはまだ、データが不足していること、解析するスケールの問題も未だにあることが指摘できた。この結果に基づき、「今後設置される保護区が、目的を明確にして、きちんとその設置前後のモニタリングを統計的な設定の下に行い、それを統計的に解析することが重要である。」というメッセージを発しています。(その他に分類群や保護区の変数8種の特性による効果のばらつきの検討、一定レベルの保護区の有効性を検出するために必要な保護区の数の推定も行った。)。ここで実際に検討した数は24の論文、30地点です(コントロールのない研究、BACIに基づく1例の他にノーテイクとその外との比較がない研究は除く)。なお、殆どの研究は同じ場所の中での擬反復で、主な内訳は19報がダイビングのトランセクト観測、17が地中海。保護区の設置年数の中央値は23年。モニタリング期間の中央値は14年。報告の効果が検出された年の中央値は保護区設置から9.5年となっています。
(メタ解析についての参考資料 https://hosho.ees.hokudai.ac.jp/tsuyu/top/dct/metaana-j.html

次に2014年のエドガーさんらの論文です*3。彼らは、87箇所のMPAで、5つの保護区の特性(No fishing allowed(禁漁区), Well-enforced(強制力・管理の実効性), More than 10 years old(10年以上), Relatively large in area (larger than 100 km2)(100km2以上), Isolated from fished areas by habitat boundaries, such as deep water or sand.(隔離されている)のうちいくつに該当するかを検討しました。そして、バイオマスと種数へのこれらの特性の該当した数の効果を比較した結果、保護区の特性が複数があることで、効果が指数関数的に増加することを示しました。しかし、大部分のMPA(59%)は1つまたは2つの重要な特徴しか持たず、他の漁場と区別できなかったことも同時に示しています。
https://d3i71xaburhd42.cloudfront.net/81f037e7bae5b1a13cdc70bba438138cdbb8aa78/3-Figure2-1.png




そして、Gillらによる2017年の論文を追記します*4
この論文は、海洋保護区の効果について管理についての情報を433点、魚の個体群についての情報を218地点収集して、保護区の管理プロセスと、魚の個体群に対する保護区の効果と、管理のプロセスと生態系に対する効果の関係性について検討した例です。比較の結果、71%の保護区が魚の個体群に対して良い効果があるが、ばらつきが大きい。とくに、人材と資金が不足しているために、多くの保護区で効果的かつ平衝な管理が実現できておらず、人材と資金の十分な投入によって、保護区の効果が2.9倍にもなると指摘しています。この結果に基づき、「十分な投資なしの保護区の拡大は適切な保全活動の結果を導かない可能性がある。」というメッセージを打ち出しています。地域や生息地別の評価も行っているものの、調査地点の数はカリブ海およびオーストラリアの東側と地中海に強く偏っている点が気になりますが、だいぶデータの数としては集まってきており、管理体制についての情報も入れられるようになったことがわかります。

(まだ追記します。魚だけなのかとか書きたいことあります。)


*1:Coetzee, B. W., Gaston, K. J., & Chown, S. L. (2014). Local scale comparisons of biodiversity as a test for global protected area ecological performance: a meta-analysis. PLoS One, 9(8), e105824

*2: Stewart, G. B., Kaiser, M. J., Côté, I. M., Halpern, B. S., Lester, S. E., Bayliss, H. R., & Pullin, A. S. (2009). Temperate marine reserves: global ecological effects and guidelines for future networks. Conservation Letters, 2(6), 243-253. https://conbio.onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/j.1755-263X.2009.00074.x https://conbio.onlinelibrary.wiley.com/doi/pdf/10.1111/j.1755-263X.2009.00074.x

*3:Edgar, Graham J., et al. "Global conservation outcomes depend on marine protected areas with five key features." Nature 506.7487 (2014): 216. https://researchportal.port.ac.uk/portal/files/568306/Edgar_et_al._accepted_ms.pdf

*4:Gill, David A., et al. "Capacity shortfalls hinder the performance of marine protected areas globally." Nature 543.7647 (2017): 665.