EBSA基準による東アジア、東南アジアにおける重要海域の特定と保護区や登録海域との比較

須藤さんに解析していただいていたアジアのEBSA論文がようやくPublishになりました。

そもそもEBSAとはなにかという方はこちら。
http://d.hatena.ne.jp/yamakita-lab/20170426/1493204369

日本近海の状況についてはこちら
http://d.hatena.ne.jp/yamakita-lab/20161016/1476872063



以下のリンク先で配布されています。取れない方はメールください。
http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0308597X16303761

内舩さんが途中まで論文化に取り組んでいたのですが、結果的にとりまとめをさせていただくことになり大変恐縮です。
お蔭様でなんとかIPBESの地域アセスの引用に間に合いました。

Yamakita, T., K. Sudo, Y. Jintsu-Uchifune, H. Yamamoto, and Y. Shirayama (2017, June). Identification of important marine areas using ecologically or biologically significant areas (EBSAs) criteria in the east to southeast asia region and comparison with existing registered areas for the purpose of conservation. Marine Policy, 273-284.
生物学的または生態学的重要海域の基準を用いた東アジア、東南アジアにおける重要海域の特定と既存の保全のために登録されている区域との比較

本文付録

要点の説明を書きました。***


 生物多様性条約(CBD)の重要海域(EBSA)地域ワークショップでは、専門家がEBSA各基準にランクを付け、論文に基づくその根拠資料を作成してEBSAを提案している。
一方で、本稿では偏りなく、東・東南アジアを同じ基準で体系的に評価する試みとして、EBSA各基準に対象海域で同じ指標を適用して評価を行った。

 体系的な方法によるEBSAの選定結果と既存の海洋保護区やそのほかの重要海域の区分(例えば世界遺産、EBSA地域WSで提案海域)と比較した。
その結果、面積の広い保護区に関しては、現在の保護区と体系的EBSAは一致した。
特に面積ではグレートバリアリーフを擁するオーストラリア北部の珊瑚海に広がる世界遺産と体系的EBSAとが一致していた。
また、フィリピン南部ミンダナオ島インドネシアカリマンタン島スラウェシ島に囲まれたスールー海-セレベス海(Sulu-Sulawesi Ecoregion)は、従来の海洋保護区ではほとんどカバーされていないが、NGO保全のPRを行っており、EBSA地域WSでも専門家によって評価されている。この海域の半分以上が体系的抽出と合致しており、新たな重要海域を適切に特定できた。

 一方で、EBSAと類似した基準で評価されたが実際に用いた指標の違いで生じた差、今回の体系的評価ではデータの不足によって生じた差、さらにEBSAと異なる基準で選定されたことによる差が見られた。
例えば、インドネシア東部、ティモール島北西にあるサヴ海(Savu Sea)海洋国立公園は生物の回遊にとって重要との記載があるが、アジア海域全域を回遊に関する指標で十分評価できるデータは得られず、体系的な方法ではEBSAに選定されなかった。日本では小笠原諸島世界遺産区域のうち北硫黄島南硫黄島西之島ではデータが全く無く、重要な海域とされなかった。

 以上から、EBSAによる体系的な評価の可能性を示すとともに今後必要な情報などが明らかになった。

また複数の指標の統合する際に評価値にエラーが存在する場合の影響を検討した。
その結果、総和や最大値よりもMarxanが(選択範囲を目標面積で指定しているために)選択範囲の値の分布に与える影響が小さい結果になることを示しました。


EBSAの各基準において評価をされた主要な地域

各基準によって以下のように評価されました。

東南アジアの海域の名称は右の社会科の地図などを参照しながらお読みください。
東南アジア─項目ごとに整理して考察する 地理B

また、各基準を作成するにあたり以下のデータを用いています(須藤作図)。

 「基準1、唯一性、または希少性」には、専門家が選定した固有種・希少種の分布域、海山等の固有な生態系、対象海域のみに標本がある種の分布などを利用した。その結果、渤海からベトナム北部の南シナ海沿岸、フィリピン南部ビサヤ諸島からカリマンタン島のマレーシア沖にかけたスールー海セレベス海の北部、インドネシア東部の小スンダ列島からニューギニア島、オーストラリアにかけたアラフラ海とバンダ海の境界のタニンバル諸島周辺、および日本列島太平洋側沿岸などで高い値が広く広がっていた。その他スポット的に高い場所は寒帯から熱帯まで広がっていたが、インド洋ではそうした場所が少なかった。
 「基準2、種の生活史における重要性」については、ウミガメやウナギの産卵場とし、CBDのEBSA検討事例で挙げられている海鳥の採餌海域はバードライフインターナショナル等で検討が進められているため含めなかった。この基準で評価できた範囲は狭かったが、スマトラ島西のメンタワイ諸島を含むインド洋側、パプアニューギニア東部からソロモン諸島にかけてのビスマルク海、ソロモン海で高い値が広がり、沖縄やプーケット周辺にも局所的に高い場所があった。
 「基準3、絶滅危惧種または減少しつつある種の生育地」については、IUCN Red List種の分布の他、サンゴについては絶滅危惧種数が多いため、相補性解析により優先的に保全すべき場所の選定を行った。その結果は熱帯の島嶼域に偏って高い値が広がっており、タイランド湾を含む中国からマレー半島までの南シナ海やデータの少なかったスマトラ島北部を除くインド洋で低い値が見られたが、他の多くの熱帯域の沿岸で高い値を示した。
 「基準4、脆弱性、不安定性、感受性または低回復性」については、冷水性サンゴおよびオオジャコガイ、深海性のサメなどの指標を選定し、それらの種の分布とした。また、湾内の最大断面積に比べて湾口部の断面積が小さい閉鎖性海域についても海水交換が悪く水質汚濁や富栄養化が起こりやすいため、M2分潮の値を用いて選定した。その結果特定の種の分布情報がある地点は限られていた一方で、閉鎖性の高い海域は日本海タイランド湾が選定された。
 「基準5、生物学的生産性」については、沿岸域ではサンゴ礁、藻場、マングローブなどの生産性が高い生態系の分布、沖合では衛星によるクロロフィルa濃度の推定値を利用した。その結果、沿岸については熱帯域で各地に評価が高い場所がばらついて存在した。衛星による生産性の推定値は黄海で高いほか寒帯域を含めた大陸や大きな島沿岸で高い値となった。
 「基準6、生物学的多様性」については、OBIS、GBIFのデータ等から、調査努力量の違いに比較的頑強な期待種数であるHulbert’s Index のES10を算出した。その結果は日本列島および朝鮮半島の南部からベトナム北部の南シナ海にかけての範囲、スールー海からセレベス海の北部、アンダマン海、アラフラ海、オーストラリア北東部の珊瑚海で高い範囲が広がっていた。その他の沿岸にも高い値がまばらに広がっていた他、プランクトンの調査結果も反映されているために沖合にも高い値が分布する特徴があった。
 「基準7、自然性」については、Halpern et al(2008)らが17の人為的要因について、重みづけを行ったHuman impact modelのデータから、人為的影響の低い海域を抽出した。その結果、千島列島の他に、大スンダ列島からニューギニア島にかけての広い範囲で高い値が広がって見られた。


なお、山北 2017 農村計画学会 に上記内容を投稿しました。。