海岸林に画一的な植樹は適用できるのか?

海岸林の防災機能自体についてもさることながら、常緑広葉樹の高木の植樹が適切かどうかという議論もあるようです。

問い合わせを受けたので、調べたところ、以下のような事例が報告されていたので共有します。
http://www.pref.miyagi.jp/uploaded/life/204992_255858_misc.pdf

少なくとも仙台では否定的な事例がすでにあるようです。
地方の緑地計画でありがちな、潜在自然植生を無批判に盲信して一面にとりいれるのはよろしくないですね。じゃぁマツ林や広葉樹林が唯一解か、というとそうではないです。上記報告で、地域ごとの特性が考慮されているように、地域の特性を重視し全体を画一的な計画にしないことが大事という理解が良いのではないでしょうか。(そもそも海岸は撹乱がある場所なので、仮に潜在自然植生で描かれる極相林が撹乱を防いだ場合に成立しうるとしても、撹乱強度に合わせた遷移途中で維持され、異質性に富んでているほうがより潜在的な自然に近いはず。)
個人的には、自然という文言が目標があるのであれば、(そもそも稚樹の調達や土壌も含めて、植林に問題がある場合もあるので)木をむやみに植えたりせずに、もっと海浜植物群落や砂丘を大事にしてほしいと思います(飛砂とかもあるので、人が近くで生活することを重視するのであれば、目標を変えたほうが良いと思いますが。)。

ついでに言えば、特に都市域で緑地計画に草本群落が無視されすぎていて悲しいです。林を作る場合も桜ばかり植えないで、どういう林にしたいのか識者中心に地域の関心がある人と考えてほしい。

宮城県における海岸防災林の再生に向けた取り組み
―植栽樹種選定に向けた検討を中心にー
宮城県農林水産部 河野 裕
より抜粋

8 高木性常緑広葉樹の植栽について
海岸防災林の植栽樹種にタブノキ等の高木性常緑広葉樹を推す声があるが,これらの常緑広葉樹は宮城県北部のリアス式海岸域の一部には分布しているが,仙台湾岸の砂浜域では植林から数百年を経た現在も分布しておらず,クロマツと落葉広葉樹が中心の海岸林となっている。
このことは,仙台湾岸域では砂浜海岸という土地的条件と冬季には寒冷な西風が強いという気候的条件から現在の森林植生が形づくられていると考えられ,高木性常緑広葉樹を植栽し成林させることは相当な困難が予想される。
一例として,仙台湾岸域で2011年7月に植栽されたタブノキ,アラカシ等が2012年3月には,そのほとんどが褐変してしまった事例がある。写真-26,27,28

その後,2013年1月の状況は,前年に褐変したもののうち枯損を免れた樹木の中には,根元から萌芽枝が伸びているものもある。写真-31この植栽地が今後どのように推移していくか,経過を見なければ分からないが,褐変,枯損,一部樹木の萌芽が繰り返され,相当の年月を経た後,残存した樹木により森が形成されていくのではと想像される。これらのことから,一日でも早い海岸防災林の再生が喫緊の課題となっている仙台湾岸の公的な森林整備においては,高木性常緑広葉樹の植栽は取り得る手法ではないと考える。