生物多様性版IPCC、生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBESイプベス)について

GBIFシンポジウム等でIPBESについて概説してきました。以下に概要を掲載します。

 2010年までの目標を評価し新たな10年間の目標「愛知目標」が生物多様性条約第10回締約国会議(CBD-COP10)で議決されました。2012 年4月にはこの目標達成のための政府間組織として「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間科学-政策プラットフォーム(IPBES)」が設立されました(124の国が加盟;2016年2月現在)。
 IPBESは、生物多様性IPCCとも称されるように「科学的評価」と「政策立案支援」を研究者が中心に行う機能を持ちます(環境省パンフレットの図参照)。一方で、当初のIPCCが気候モデル等を扱う研究者中心に進められた方向性に対し、伝統的知見をふくめた「知見生成」や、地域や将来の活動を担う人材のための「能力養成」も活動の柱としています。
 2018年までの具体的な作業として4つの目標が設定されており(環境省パンフレットの図参照)、中でも自然科学の研究者と関係が深いものに、現状と将来の変化について地域および全球レベルで評価を行う目標2と、花粉媒介や土地劣化、生態系サービスなど個別のテーマについての評価を行う目標3があります。
目標2のうち、特に地域アセスメントについては、2015年から2018年までの約3年間で自然の恵み、生物多様性と生態系の現状と傾向、直接的及び間接的変化要因、自然と人間の相互作用の分析、制度や意思決定の各項目について執筆することになっています。アジア・オセアニア地域の場合、約130名の専門家が結集した執筆者会合が2015年に開催され、2016年7月にはドラフトの査読者となる専門家の募集を行ったところです。
目標3については2016年2月に開催された第4回総会での承認を経て(1)「花粉媒介者、花粉媒介及び食料生産に関するテーマ別アセスメント」と(2)「生物多様性及び生態系サービスのシナリオとモデルの方法論に関するアセスメント」について、IPBESの初のアセスメントの成果として公表されています。



進捗

  • 5つの進行中の評価(2018年中頃を予定)
    • 土地劣化と修復
    • 4つの地域/小地域のアセスメント
      • アフリカ
      • アメリカ大陸
      • アジア太平洋地域
      • ヨーロッパと中央 アジア
  • 2016年3月に新たに開始された評価(2019年半ばまで)
    • 生物多様性と生態系サービスの グローバル・アセスメント
  • その他の実施事項
    • キャパシティビルディング、先住民と地元の 知識、政策のサポートとツール、知識の伝達(科学 機関 と資金提供機関 の対話など)
    • この期間の予算は 約$43M(約47億円)・・・多くの専門家は自前の旅費で参加が必要な状態*1

先行するアセスメント事例:;シナリオとモデルの手法の検討

詳しくはWebで
Deliverable 3c Individual chapters 3 Oct_0.pdf
http://www.ipbes.net/sites/default/files/downloads/pdf/Deliverable%203c%20Individual%20chapters%203%20Oct_0.pdf

  • 目的:政策におけるシナリオとモデルの検討のガイダンス
  • 対象:政策決定者、ローカルからグローバル 研究者、資金提供機関、 IPBES内部(アセスメントに活用)
  • 実施体制:2人の共同議長、15人のとりまとめ担当者(CLA)、51人の主執筆者(LA)、21人の執筆協力者(CA)、12人の査読者(RE)技術サポートユニット(TSU)はオランダ3回の執筆者会議と2回の外部レビュー(2360件のコメント、45か国、194人)

→報告は2016年2月IPBES4で受理
環境省 生物多様性地球戦略企画室による要約 http://www.env.go.jp/press/102177.html

  • 報告書の形式
    • 政策決定者向け要旨
    • 個別の章
    • 概況とビジョン
    • 政策決定への利用
    • ドライバーのモデル
    • 生態系変化のモデル
  • 主な成果:15の主な発見と3つの主なメッセージ
    • 1、シナリオとモデルが政策に使える。
    • 2、多くの手法が使えるが、特に不確実性に注意して扱う必要がある。
    • 3、適切な計画や投資や教育などが必要。
    • 6つの政策・科学へのガイダンス
    • 6つのIPBES関係者へのガイダンス

先行するアセスメント事例:花粉媒介者と食糧生産の検討

詳しくは報告書を参照 https://goo.gl/QKpaZ4  

  • 政策担当者向け要旨
    • 22のキーメッセージ
  • 個々の章と実務的要旨
  • 実施体制:2人の共同議長、19人のとりまとめ担当者(CLA)、42人の主執筆者(LA)、31人の執筆協力者(CA)、14人の査読者(RE)技術サポートユニット(TSU)は

3回の執筆者会議と2回の外部レビュー(10300件のコメント、50か国、280人)

  • 要旨の注目すべき点
    • 世界の花をもつ野生植物の87.5%(約308,000種)は、少なくとも部分的に動物による受粉に依存。その割合は熱帯の群落で94%、温帯の群落で78%に及ぶ。{1.2.1,1.6,4.0,4.4}
    • 受粉サービスと直接結びつく生産量の5〜8%の市場価値は、約2,350億〜5,770億ドル/年と推定されている{3.7.2,4.7.3}
    • 北西欧州と北米で、多くの野生ミツバチと蝶が量、出現、多様性において減少。他の地域のデータは一般的な結論を導くには不十分。 {3.2.2,3.3.3}。

↑GBIFに節足動物の情報は少ない。(鳥類・哺乳類はそこそこある)

現在進行中のアセスメント:地域アセスメント

  • 目次構成
    • 第1章 :はじめに(状況説明)
    • 第2章: 人々と生活の質への自然の恵み
    • 第3章:人々への自然の恵みの基盤となる生物多様性と生態系の現状、トレンドと将来の動態
    • 第4章:生活の質についての異なる視点の状況における直接および間接的な変化の要因
    • 第5章: 自然と人間社会の相互作用の統合的、スケール横断的解析
    • 第6章: スケールとセクターを横断した、管理オプション、制度設計と、公的・私的な意思決定

内容の詳細は守秘義務があるが、各国の主執筆者への情報提供は歓迎(2016年7月に最初のドラフトの外部レビューが完了、 2017年初めには2度目のドラフトが完成予定)。

*1:ヨーロッパの地域アセスメントでは旅費が出ないことから最初の筆頭著者のドラフト会合で不参加になる人が多数いた模様