日本とその近海の重要海域とMPAの情報

■重要海域
そもそもEBSAとは何かについてはこちらに記事を書きました

環境省ではCBDのEBSAを参考にした基準で
生物多様性の観点から重要度の高い海域」の抽出を行いました。
-会議資料 https://www.env.go.jp/nature/biodic/kaiyo-hozen/ima.html
-公表された結果 http://www.env.go.jp/nature/biodic/kaiyo-hozen/kaiiki/index.html

この会議で収集された内容とデータ、さらには専門家が収集した情報に基づいて、CBDの東アジアのEBSAワークショップでは日本近海のEBSAの評価書類を書きました(他所とのバランスや作業量の課題もあり、全部の評価を提案しませんでしたが)*1

この提案はワークショップの成果として前回のSBSTTAで報告され、EBSAのrepositoryに登録されています。
-地図 https://www.cbd.int/ebsa/
-WSの報告
https://www.cbd.int/doc/?meeting=EBSAWS-2015-03

(ここではEEZの中はrepositoryに登録しないのか、東アジアは報告書は上がっているのに、地図は更新されませんね。→20170820追記:7月末に公表されました。CBD-COPに報告がいって了承されたのちに、さらに国連総会で最終的には承認される必要があるため(これは知らなかった)ということだったようです。)
(国の集まりではなく専門家による検討であるため九州-パラオ海嶺などいくつかは環境省の重要海域の範囲を超えてCBD-EBSA WSでの提案が進んでいます。)


■海洋保護区(MPA
日本政府は、「日本の海域の 8.3% が MPA である」(2011 年海洋政策本部発表)としています。
ここで示されたMPAの定義には
国立・国定公園海域公園地区(自然公園法)、自然環境保全地域海域特別地区(自然環境保全法)、国指定鳥獣保護区特別保護地区(鳥獣保護法)、天然記念物地域指定(文化財保護法)、保護水面(水産資源保護法(合計しても領海および排他的経済水域の0.03%以下)の他に、
国立・国定公園の普通地域(海岸線を含む公園は海域は沖合1kmが自動的に入る)(前者と合わせて領海および排他的経済水域の0.28%)
さらに、漁業法と海洋水産資源開発促進法によって指定されている漁業権区域等(6.9%相当)を含めています。


日本のMPAと題した地図はありませんが、
海洋台帳(http://www.kaiyoudaichou.go.jp/)などで、それに相当する区域の図の多く見ることはできます。
またNACSJの報告書で海洋水産資源開発促進法の指定区域と沿岸水産資源開発区域の図化されたものがみられます。





その他に国際的なデータベースとして、UNEP WCMCが収集した保護区のまとめがあります(https://www.protectedplanet.net/ http://www.protectplanetocean.org/)。
しかしながら、ここに日本をふくめた保護区が掲載されていますが、情報精度がよくわかりません。
上記の国立・国定公園の普通地域(海域)までは入っていて、漁業権区域は入っていない模様です。
(2017年1月にみたところでは一部北海道は入っている?)

■個人的な感想。

 海外でも水産資源管理の区域をMPAとしているので、それ自体は良いのですが、漁獲対象種だけの管理目標だけではなくて、生物多様性や生態系の持続性を管理目標に入れておくという必要があるように思います。

 海外で違法漁業が普通なMPAが横行している現状と比べると(商社がそういうところからマグロを買って、日本の水産業界全体がだいぶ批判を受けている面もあるとはいえ)、日本の漁業管理の実行面ではそれなりにできているように見えます。しかし、そもそもの管理目標でうまく設定できていないと指摘されているものがしばしば見うけられます。それに加えて、日本の一般市民にとってMPAの基本はNo take(保護)のイメージが強く、漁業と相反するものであろうという考えが浸透しています、そのため漁業管理をことさらMPAとアピールする組織がないと思います。(直接聞いたわけではないですが、NGOはアピールすべきでないと思っていてために、水産庁は漁業関係者の反発を懸念している?)


 近年は水産庁もMarine Ecolabel(MEL)などを作成したり、生物多様性管理の取り組みを募集したりといった水産物だけではない取り組みもはじめています。(・・・MELは海外の認証であるMSCやが高額であるために作ったようですが、英語での(日本語でもオンラインの情報は少ないですが)情報公開がないため非公開の独自認証だと一部MSCを推進する団体を含むNGOからは批判されていますが)。


こうした現状には、様々な要因がありますが個人的にこの状況の要因の1つは
日本語と英語版の漁業法で微妙にニュアンスが違う点も影響しているのではないかと思っていまして、
Fishery Act in english
www.japaneselawtranslation.go.jp/law/detail/?id=1871&vm=04&re=01

漁業の責任として
英語では" reproduce aquatic animals and plants" と書いてあり、水域の生物全体の増殖を図るように読めますが、
日本語では「水産動植物の増殖」と書いてあり、慣習的に水産=漁業と解釈すると、漁獲対象の資源のみの増殖をすべきとも読めます。(水産は辞書の原義では水産資源以外の水域一般に産するものを指すので英語のようにも読めますが。)

法律の素人の解釈論はともかく、
実体として漁業法にもとづく漁業者の責任として、稚魚の放流など漁獲対象種の増殖は多く行われていて、それなりに予算もついています。しかし、生態系や生物多様性を考慮して、様々な手法を組み合わせて水域の生物全体の増殖を図る総合的なとりくみに、水産庁が本格的に予算を出す例はまだまだ少ないと思います。こうした再生事業の根拠となるべき水研等の研究自体も、(最近少し上の方の生物多様性周辺の動きへの認識も変わってきたようですが)、まだまだ水産資源に特化したものが多いように、はたから見ていると見えます。

 行政は管轄する法律や事業に対応した直接の効果がある事業しか予算化しにくい事情もわかりますので、行政側も生物多様性や持続可能性自体を目的にした、環境省や国際条約でできる枠組みを利用した工夫が必要です。研究サイドからは生態系の仕組みの解明や可視化、予測を通じて、水産庁などにとっての便益がどの程度かを示し、研究成果としての貢献だけでなく、水産庁などとして独自に取り組むべきことも提案することも大切だと思います。さらに漁業者やNGOもそういった枠組みの促進や現場での実行やPRへと邁進して次世代に資源を有利な形で残しつつ使っていただけると、みんながうまくいくように思います。

■参考にAPの会合で承認された重要海域の一覧を以下に貼っておきます

1 Hainan Dongzhaigang Mangrove National Natural Reserve
2 Shankou Mangrove National Nature Reserve
3 Nanji Islands Marine Reserve
4 Cold Seeps
5 Muan Tidal Flat
6 Intertidal Areas of East Asian Shallow Seas ★
7 Lembeh Strait and Adjacent Waters
8 Redang Island Archipelago and Adjacent Area
9 Southern Straits of Malacca
10 Nino Konis Santana National Park
11 The Upper Gulf of Thailand
12 Halong Bay-Catba Limestone Island Cluster
13 Tioman Marine Park
14 Koh Rong Marine National Park
15 Lampi Marine National Park
16 Raja Ampat and Northern Bird’s Head
17 Atauro Island
18 Sulu-Sulawesi Marine Ecoregion
19 Benham Rise
20 Eastern Hokkaido★
21 Southwest Islands★
22 Inland Sea Areas of Western Kyushu★
23 Southern Coastal Areas of Shikoku and Honshu Islands★
24 South Kyushu including Yakushima and Tanegashima Islands★
25 Ogasawara Islands★
26 Northern Coast of Hyogo, Kyoto, Fukui, Ishikawa and Toyama Prefectures★
27 Ryukyu Trench★■
28 West Kuril Trench, Japan Trench, Izu-Ogasawara Trench and North of Mariana Trench★■
29 Nankai Trough★■
30 Sagami Trough and Island and Seamount Chain of Izu-Ogasawara★■
31 Convection Zone East of Honshu★■▲
32 Bluefin Tuna Spawning Area★▲
33 Kyushu Palau Ridge★■
34 Kuroshio Current South of Honshu★▲
35 Northeastern Honshu★
36 Hydrothermal Vent Community on the Slope of Southwest Islands★■

Google翻訳

1 海南・東寨港(ドンツアイガン)マングローブ国立自然保護区
2 山口マングローブ国立自然保護区
3 南麂島海洋保護区 https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%8D%97%E3%82%B8%E5%B3%B6
4 冷水湧出帯
5 務安干潟
6 東アジア浅海の潮間帯
7 レンベ海峡と隣接する海
8 レダン島列島とその周辺
9 マラッカ南部海峡
10 ニノ・コニス・サンタナ国立公園
11 タイの上湾
12 Halong Bay-Catba石灰岩クラスタ
13 ティオマン海洋公園
14 コ・ロングマリン国立公園
15 ランピマリン国立公園
16 ラージャ・アマットと北鳥の頭
17 アタウロ島
18 スール - スラウェシ海洋生態系
19 ベンハム・ライズ
20 北海道東★
21 南西諸島★
22 西部九州の内陸海域★
23 四国と本州諸島の南海岸地域
24 屋久島・種子島を含む南九州★
25 小笠原諸島
26 兵庫県北部、京都、福井、石川、富山県
27 琉球海溝★■
28 西クリル海溝、日本海溝、伊豆 - 小笠原海溝マリアナ海溝北部
29 南海トラフ★■
30 相模原トラフと伊豆小笠原の島と海山チェーン
31 本州の対流ゾーン★▲▲
32 クロマグロ産卵域★▲
33 九州・パラオ海嶺★
34 本州南部の黒潮潮流★▲
35 本州東北部★
36 南西諸島の斜面にある熱水生態系■

*1:なお、この過程は専門家による科学的なエクササイズでMPAなどに(直接)つながるものではないという位置づけでしたが、他国が政治的に国のバックアップもあって各EBSAの評価資料を準備していたのに対し、日本では専門家任せでありそれも専門家に良く知らされていなかったため、EBSA自体の提案とそのデータは他国以上に十分なものだったのですが、評価の文章自体は短期間での作成を余儀なくされてえらい苦労しました。