世界の保全課題に関する将来展望 A horizon scan of global conservation issues for 2014

 サザーランドさんらによる、世界の保全課題に関する将来展望が発表されました。
このホライゾンスキャンは、毎年TREEに発表されているもので、発表をはじめて5年目になります。2010年のものは、やまうらさんのBlogをご参照ください。http://yamaura.blog.so-net.ne.jp/2009-12-23

 過去のホライゾンスキャンで実施に実現あるいは大きな議論になっているものは人工生命や合成肉、高圧水破砕(シェールガスのことか?)などがあります。また、IPBESやドイツ政府などでも取り入れられています。
 方法はデルファイ法を修正したものを用いて、新たにグローバルに出現しつつある課題や、保全のコミュニティに広く知られていない関連課題を抽出しました。具体的にはまず、IUCNの委員会の参加者約150人を含む369人が意見提案に参加し、コアな参加者(評価者)20人に81の課題を提案しました。次に、評価者が1000点満点で評価し、高い平均点となった35課題をはじめとする43課題に絞り込み、全員で各課題について議論した後に、再度匿名で評価を行なったものです。ランクの高かった15課題(ランク順ではない)をここで紹介します。

炭素を燃やせないことに対する、市場の対応

化石燃料を燃やさない規制がかかれば、市場規模が大きく縮小する。この課題に取り組まないと、政府は経済危機を避けるために、気候変動を許容するか、気候変動を避けるために経済危機を許容するかの選択を迫られる。
http://www.carbontracker.org/wastedcapital

泥炭地の地盤沈下の視点からの、東南アジアの大規模な土地の消失

泥炭が急速に酸化的になり100年で4m沈下する予想。沿岸や氾濫原が危険。しかも降水量が多いのでオランダ程度の対策では足りない上に、政策は都市部の洪水対策にしか焦点が当たっていない。

再生可能エネルギーの代替源としての炭素太陽電池

シリコンベースの太陽電池セルはレアメタルなどでコスト高だが、炭素で安価な生産が可能になるかもしれない。まだ変換効率は悪いが、単位エネルギーあたりの面積を小さくできる(?)ので、ビルや土地や水中や人間に取り付けたり、生物のトラッキングなどにもつけられる。

生物燃料のための大型藻類栽培の範囲の急速な広がり

コストと効率の初期の課題は克服されており、陸上の6倍のポテンシャルの面積がある。他の生物燃料と違い農業と競合しない。オーストラリア、デンマークアイルランドノルウェーポルトガル、英国(例えば、 http://www.biomara.orghttp://www.seaweedenergysolutions.com )で取り組まれてる。沿岸の生物や生産とは競合するものの、沖合の他の再生可能エネルギーや養殖との相乗効果があるかもしれない。大規模生産の生態系への影響は不明だが、日陰や窒息、栄養塩循環や食物網の変更などの検討が必要。

地球の気温上昇の生態系間の再分配

表面温度の上昇率は、温室効果ガスの影響で過去150年で約0.8度だったが、過去10年間にわたって鈍化。これが政策立案者に削減目標を遅らせることにもなる可能性があるが、通常の気候変更かもしれず、温暖化の多くは、表面ではなく 700メートル以下の深海に発生した証拠もある。これまで地上風で再配分されてると考えられていたが、より海洋と密接にかかわることが考えられており、特に深海での生物への影響の研究が欠けている。

高頻度の土地被覆変化の観測

新しい衛星やリモートセンシング用のセンサーでデータの量や品質も上がっていると同時に、無料や安価にもなっている。MODISやLandsatや民間のDMC3で頻繁なモニタリングもできそうだが、精度や画像の状態、解析要員が課題。森林など特定の利用以外の、自然の土地利用や海については判読も難しい。だが、狭い範囲なら高頻度高精度で可能だろう。自動解析、森林以外の土地利用判別、高解像度での特徴解析の発展に期待。

野生のサイや象の減少速度が、再加速

保全活動の数十年が犯罪組織により毀損された。中央アフリカの森林ゾウ(マルミミゾウ)の数は、2002年から2011年の間で62%減少。2013年の初めにアフリカ全土でそれぞれ20405頭と5055頭いたシロサイとクロサイは、 南アフリカ一国で9月までに613頭密猟された。サイの角の小売価格は、依然として金よりも高く、購入しているアジア諸国は経済成長しているのでエスカレートするのではないか。

島の外来哺乳類根絶の大規模化

技術的な改善が見られ、新しい毒餌や空中餌の提供にGPSを使用する手法などが開発された。また、低密度な外来種を誘因して根絶するツールも評価されている。ウサギ類、クマネズミ類、野ネコ(12 800 ha)と、ヤギ (15 400 ha; 463 000 ha)について、大規模なプログラムが成功した。一方、太平洋ラットの不成功に終わった例(4300 ha)もある。現在、ニュージーランドでは(>174 000 ha)、全列島からの侵略的外来捕食者の根絶をプロポーズしている。また、家猫をペットとしておくため中絶する働きかけがなされている(‘Cats to Go’; http://garethsworld.com/catstogo)

外来侵入種の制御のための自立的遺伝子系

個体を不妊にする遺伝要素を伝達する遺伝子制御技術は、蚊など病気のベクターについて急速に発展している。特に生殖不利益を与える遺伝子にもかかわらず、個体群内に遺伝子を広める方法が提案されている。魚や植物で理論とモデルの研究が進んでいる。

両生類のためのプロバイオティクス療法

皮膚病ツボカビによる両生類の減少が指摘されている。人間でもマイクロバイオームが注目されているが人以外でも注目されつつある。プロバイオティクス療法の概念は有望ではあるが、両生類のについて実験室とフィールド実験はまちまちな結果が得られている。また、人為活動のマイクロバイオームへの影響、成因、伝染、特に抗生物質の解除などが今後の課題。

ヘビ真菌症( SFD )の出現

ヘビの新しい感染症が9州、7種で広がっており、2006-2007年にニューハンプシャー州のガラガラヘビ類のアバンダンスが50%減ったのもSFDとかんがえられてる。接触以外に環境への暴露による感染もかんがえられている。ツボカビやコウモリの鼻の病気と合わせて研究推進することとと。研究の器具の消毒の必要性がある。

海洋毒物としてのポリイソブチレン

ポリイソブチレン( PIB )は潤滑剤、接着剤、シール、燃料添加剤、フィルム、チューインガムなどの製造に使用されるガス不透過性の合成ゴムで2017年に40%増加する予測。一定量の排水できる制限だが、疎水性のため表面付近を浮遊して粘着性になり、海鳥の死亡につながった報告が少なくとも4つある。IMOの保護委員会の2013年のセッションで取り上げられたが現状で監視と報告は限られており影響の程度は不明。

南極における搾取

探査と鉱物や南極の炭化水素のその後の利用のための圧力が高まっている。南極条約2048年までは鉱物資源活動を排除するとしているが、科学調査は例外であり、実質的に探鉱にむけたステップとしての調査が増加している。例えばロシアが2020年からの調査計画を立て、加盟国による反対により実現しなかった例や、中国による条約の求める基準を満たさない基地の建設計画がある。南極におけるアクセスの増加は環境への影響が通常よりも大きく、離れているため油や毒物除去なども困難だろう。

生態系のレッドリストの拡大

2025年までに適用することを目指してカテゴリーと基準がIUCNで提案されている。国や地域レベルでのリスク評価の実施への関心も急速に高まっている。評価の公表は、資金提供機関による追加割り当てにつながる可能性がある一方で懸念もある。政策担当者が重要な場所を正しく評価しない可能性や、異なるスケールで評価できることを利用して、政治的な圧力のもとに評価に不適切な単位を選ぶ可能性がある。

絶滅種の復活

マンモス、リョコウバト、フクロオオカミ知名度が高く。 潜在的な方法としてバック繁殖、クローニング、遺伝子工学的な方法があるが、クローニングでも杯は別種に由来する。シーケンシングの高速化もDNA断片から絶滅種のゲノムの再構築できる可能性がある。復活は生態系のキーストン種を戻したり、1個体でもアウトリーチや教育に使える。しかし、少数の象徴的な絶滅種に焦点を当て、現代の絶滅防止や生態系の維持と復元から注目と資源を転換させる可能性がある。また、環境中に復活種を放出することの生存率、倫理、、安全性が十分に検討されていない。

関連資料

ホライゾンスキャン(将来展望)

Foresight Toolkit U.K. and The AC/UNU Millennium Projectより
http://www.oecd.org/site/schoolingfortomorrowknowledgebase/futuresthinking/overviewofmethodologies.htm

ホライゾンスキャン(Foresight)の例

海外の事例のレビュー
http://www.jst.go.jp/crds/pdf/2012/OR/CRDS-FY2012-OR-02.pdf

内閣府経済社会総合研究所ESRI
「安全・安心な社会の構築に求められる科学技術イノベーションに関する研究」研究会 報告書 平成25年4月
http://www.esri.go.jp/jp/prj/hou/hou063/hou63.pdf

デルファイ法

反復型アンケートによって、専門家の意見を収斂させる方法。
未来予測の定性調査やシナリオプランニングによく用いられ、匿名でアンケートを行い、中央値や四分位範囲、得票順などの統計的な結果を、事前のルールに基づくいてフィードバックし、意見形成を図る。
http://www.itmedia.co.jp/im/articles/0805/26/news130.html

Trends in Ecology & Evolution
Volume 29, Issue 1, January 2014, Pages 15-22
Review
A horizon scan of global conservation issues for 2014

ウィリアム·J·サザーランド、ロザリンド エーブリング、トーマス·M·ブルックス、ミック クラウト、リンV.ディックス、リズ フェルマン 、エリカ フライシュマン、デビッド·W·ギボンズ、ブランドン カイム、フィオナ リコリッシュ、キャスリンA.モンク、ダイアナ モーティマー、ロイドS.ペック、ジュール·プリティ、ヨハン ロックストロム、ジョン·ポール·ロドリゲス、レベッカ K.スミス、マーク D スポルディング、Femke H. Tonneijck、アンドリュー·R·ワトキンソン

http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0169534713002772